顧客体験は改善され続けてこそ価値になる──丸井が選んだ、進化するパーソナライズ基盤
2000以上のブランドを取り扱う「マルイウェブチャネル」は、ファッションアイテムをメインとしつつ、コスメやアニメといった分野も扱う通販サイトです。同サイトは、首都圏や大都市圏を中心に商業施設「マルイ」「モディ」を21店舗展開する、株式会社丸井が運営しています。
従来のレコメンドエンジンへの課題感や違和感は、担当者が代わっても同社EC部門に引き継がれてきました。前任者からプロジェクトを引き継いだ三好氏と宮本氏が最終的にたどり着いたのは、レコメンドエンジンの置き換えです。ただし、それは単なるリプレースではなく、顧客体験全体を改善し続けられる「パーソナライズ基盤」への転換でした。前任者の担当期間も含め、2024年のPoC開始から約2年半にわたるInsightXとの協業を通じ、商品シェルフの導入からパーソナライズ基盤への刷新に至ったのはなぜなのか。その軌跡を主担当の和田との対談形式で振り返ります。
プロフィール

三好 弘晃氏丨株式会社丸井 EC事業本部 シューズ・UI開発課 チーフリーダー (2025年4月より本プロジェクトを担当)
2020年に丸井グループへ入社し、新宿マルイに配属。2021年よりシステム部門へ異動し、2023年からは自社EC「マルイウェブチャネル」の企画・開発・運用を担当。検索・レコメンドエンジンの導入・運用や、ECサイト基盤の構築を推進している。

宮本 菜穂子氏丨株式会社丸井 EC事業本部 シューズ・UI開発課 リーダー (2025年11月より本プロジェクトを担当)
2021年に丸井グループへ入社し、マルイ各店舗にてレディース雑貨・韓国コスメの接客販売を担当。2023年より自社EC部門へ異動し、サイト制作業務に従事。現在は検索・レコメンドエンジンの運用担当者として、サイトのパーソナライズ化に注力している。

和田 哲也丨株式会社InsightX Forward Deployed Engineer
大阪大学情報系修士卒。学生時代からインターンとしてInsightXに参加し、初期メンバーの一人としてプロダクトの立ち上げに携わる。2024年にInsightXに新卒入社。丸井との取り組みでは、商品シェルフのPoCから製品版導入、そしてパーソナライズ基盤への移行まで一連の流れを牽引。

「レコメンドを育てたい」という思いとInsightXの柔軟性
和田:本日は取り組みを振り返る機会をいただき、ありがとうございます。あらためてお話できることを、大変嬉しく思っています。今日はよろしくお願いします。
三好氏:こちらこそよろしくお願いします。
和田:さっそくお伺いしていきます。初めて丸井様とお話する機会をいただいたのは2022年末、前任の方からのご相談がきっかけでした。お二人はプロジェクトを引き継ぐ際、当時どんな課題感があったと聞いていますか?
三好氏:それまでECサイトのレコメンドは、「パッケージ的にとりあえず入れればいい」と捉えられていました。ただ、それだけでは価値を発揮しきれないという実感が次第に強まり、レコメンドも育てていきたい、という問題意識が部内に広がっていったようです。
とはいえ既存のレコメンドエンジンを育てようとすると、膨大な時間やコストがかかるため、なかなか取り組みづらいのも事実です。何かアジャイル的に進められる改善手段はないものだろうか、と探していたようです。
InsightXさんとのやりとりを重ねる中で、既存のレコメンドエンジンには手を入れず、商品シェルフという新しい枠をひとつ追加してみる、という進め方が見えてきたそうです。動いているものは止めず、最小限の範囲から育てられる場所を持つ。その形で2024年のPoCが始まりました。
和田:「レコメンドを育てる」ことに前向きに取り組む会社は、当時少数だったと記憶しています。御社ではそういったカルチャーがもともとあるのでしょうか。
宮本氏:レコメンド領域に限らず、EC部門は「新しいことをやっていこう」という姿勢が常にある部門です。何事も現状維持を続けていれば、やがて衰退していくからです。今とは違う仕組みの、新しいことに挑戦しなければ伸びないという感覚がありました。
和田:PoCに向けた話は、前任の方と進めていました。お二人はInsightXについて話を聞いていましたか?
三好氏:前任者はずっと「InsightXさん、すごくいいよ」と推していましたね。数字にいい意味で厳しく、アジリティが高いところを評価していました。

宮本氏:私は途中から加わったのですが、引き継ぎを受けたときに驚いたことがあります。外部サービスを導入するとき、そのほとんどはシステム部門を介します。一方『InsightX』は、そこを介さず導入できていました。そうしたほうが早く、コストも抑えられるので、直接導入できるならしたいのですが、実際にできるとは思っていませんでした。
三好氏:SaaSをECで利用するとなると、事前準備として商品データをはじめとしたさまざまなデータを連携する必要があります。そのとき、インターフェースの相性や、不足する情報などの問題に対応するため、何かしら新規で開発しなければならないところも出てきて、システム部門の力を借りるほかなくなるんです。それが今回、既存の商品データを使い回す形で対応できたと聞いており、だからこそシステム部門を介さずに済んだのだと理解しています。
和田:それこそ「アジャイルに」というニーズとも合致したわけですね。
外部の専門性を掛け合わせて生まれたシナジーの種
和田:2024年から約半年間、商品シェルフのPoCを本格的に開始しました。お二人はまだ担当ではなかったタイミングですが、何か印象に残ったことはありますか?
宮本氏:A/Bテストを実施する際は、他の課にも経過を伝える必要があるので、前任者からA/Bテストの経過が送られてきていました。PDCAをすばやく回しながら、シェルフの位置を変えたり、段を増やしたりといった細かな調整とテストを繰り返している様子を見て、InsightXは本当の「勝ちパターン」が見つかるまで丁寧にやってくださるのだと感じました。
和田:EC部門の皆様は、私たちとのPoCを始める以前から、さまざまなA/Bテストを実施されていましたよね。そこには「新しいことに挑戦し、改善していこう」という強い意志があるように感じられました。
三好氏:もちろん、あります。ただ、私たちのような新任の担当者が、仮に何かを新しく始めても、それはもう別の人が数年前にやっている、ということも珍しくありません。優秀な先人たちがさまざまな試行錯誤を重ねたうえで、現在のマルイウェブチャネルがあります。そこをベースとして新しいことをやろうとしても、わずかな残滓を絞るような改善しかできません。一方で、外部環境や商材は日々目まぐるしく変わっていきます。この二つの要素を重ねて考えると、時代に応じて柔軟に形を変えていける、改善し続けられる基盤を新たに作る必要があるのではないか、と考えていました。

和田:まさにその「改善し続けられること」が、私たちがレコメンド単体ではなく「パーソナライズ基盤」を掲げている理由でもあります。完成品を納品して終わりではなく、お客様の体験を改善し続けるための土台をご一緒に作っていく、という考え方です。三好さんは2025年4月から、そして宮本さんは2025年11月からプロジェクトに参画されました。お二人とも他の課から異動してきたこともあり、キャッチアップや立ち回り方に苦労した当事者だと想像していますが、そこはどのように乗り越えたのでしょうか?
三好氏:それこそ、InsightXさんが伴走してくれました。
宮本氏:担当者同士の会話でも、「レコメンドのことはInsightXさんに聞こう」「自分たちで悩むよりプロに相談しよう」という話がよく出ます。異動する人材が多い環境下で、社内リソースだけで専門性を担保するのはなかなか難しいですから。
和田:丸井グループ様は小売やフィンテックといった事業ドメインに対する専門性がありますから、そこに私たちが持つパーソナライズという専門性をかけ合わせれば、新しい施策のアイデアやシナジーが生まれやすいかもしれません。
三好氏:たしかにそうですね。丸井グループは、どちらかと言えばジェネラリストに属する人材が多い組織だと思います。幅広い事業の知見を掛け合わせられるという利点もあるのですが、担当業務によっては専門性が求められることもあります。そういう観点では、InsightXさんのようなスペシャリストと共に取り組むことで新しいシナジーを生み出すのは、私たちにとっていい形なのだと思います。
“手堅い数字”への信頼が、製品版導入を後押し
和田:PoCを経て2024年末には商品シェルフの製品版導入の意思決定をいただき、2025年1月から製品版のご利用が始まりました。御社では、こうした導入の判断はどのような基準で行われるのでしょうか?
三好氏:社内稟議を通すうえでの判断要素としては「導入による費用対効果」が大きいです。PoCの段階ではほかにも様々な要素を検証しますが、製品版導入時は基本的にはROIを中心に判断しますね。ランニングコストだけでなくイニシャルコストも含めて、回収見込みなどを検討します。

宮本氏:InsightXさんが細かく数字を出し、厳しく見てくれてきたことは、最終的な判断要素としては加点要素だったと思います。出した試算がどれだけ手堅い試算なのか、投資価値はあるのか判断するうえで、現実的な数字に向き合ってこられた姿勢は評価されたのではないでしょうか。
和田:相応のご投資をいただくサービスですので、数字をもとに価値があると判断いただけたことは、私たちにとって大きな意味があります。製品版を導入していただいたあとは、既存レコメンドエンジンの効果把握や改善余地の検討が進んでいきましたね。
三好氏:それがちょうど私がプロジェクトに参画し始めた頃でした。当時すでにレコメンドエンジンのリプレースの話は上がっており、私が主導して取り組んでいった改善の数々は、そのための前準備のようなものだったと認識しています。さまざまな観点で改善余地を検討し、よりインパクトが大きい施策に数を絞って、優先順位を意識しながら取り組んでいきました。
“ダメ元の相談”から生まれた、アニメ商材のレコメンド
和田:改善の一例で、印象に残っている事例はありますか?
三好氏:商品詳細ページのレコメンドですね。商品詳細ページは、レコメンドによって売上に大きな影響を与えられる、最も伸びしろがあるページだと思います。順番をアグレッシブに入れ替えたり、自社競合が起こらないよう調整したりと、対話を重ねながらチューニングを進めていきました。
また、改善に取り組んでいて印象に残っているのは、エンドユーザーの発見を促すレコメンドが多かったことです。レコメンドというと、すでに買うと決まっている商品の周辺を並べて、その場のコンバージョンを取りにいく形になりがちです。一方『InsightX』のレコメンドは、新しい商品と出会うきっかけをつくり、そこからコンバージョンにつなげていく。数字を取りながら、お客様の体験としても意味がある点がユニークだと感じたのを覚えています。これは商材の種類が増えていくうえで絶対に必要になる要素だ、と確信しました。
和田:ちょうどその頃、非ファッション系の商材の扱いが増えるというお話が出始めましたよね。
三好氏:アニメ系の商品詳細ページですね。ある特定の作品タイトルの商品のページを閲覧しているときに、下部にその作品タイトル以外の商品がおすすめされることに、個人的には違和感がありました。その商品と同じ作品タイトルの商品だけがレコメンドに並んだほうが自然ですよね。
宮本氏:ファッション系の商材であれば、「ブランド」という分類によってそれができるのですが、アニメ系の商材の場合、作品タイトル、キャラクター、シリーズといった複数の分類が絡み合っていて、しかもどれが上位になるかは作品によって変わります。従来のレコメンドエンジンのロジックでは、アニメの作品タイトルだけで絞ったレコメンドを表示するのは、極めて難しいんです。
三好氏:まだ企画としては解像度が粗い状態でしたが、とりあえずダメ元で……と、この課題感についてInsightXさんに相談しました。
宮本氏:他の会社さんだったら、この段階では相談できないと思います。まだ何も決まっていない段階だったにもかかわらず、和田さんは真摯に聞いてくださり、何ができるか、どんな形であれば実現できるかを提案してくださいました。私たちの相談から、実現できるところまで解像度を高めてくださったことに驚いたのを覚えています。
和田:ありがとうございます。お二人が解決することで大きなインパクトが出る課題を抽出し、相談してくださるからこそ、毎回シナジーが生まれると感じています。アニメの商品詳細ページのレコメンドを改善してみて、実際の成果はいかがでしたか。
三好氏:今回の施策の対象であるアニメ系の商材は、全体に占める割合は小さいので、数字的な効果という観点では大きいとは言えません。ただ、伸ばしたいと考えていたアニメ系の商材のみに絞って見ると、お客様の特有の行動パターンを発見したり、こちらの意図どおりにご利用いただいたりと、非常に大きな効果を得られました。
宮本氏:「アニメ系の商品を買う人は、こんな動きをしています」というふうに、データ分析の結果から仮説を立てて、読み取れるポイントを整理してくださるのもありがたかったです。

密なコミュニケーションが改善をスムーズに進める基盤に
和田:その後、2025年の秋から年末にかけて、レコメンドエンジンのリプレース、私たちから見ればパーソナライズ基盤への移行という話が、具体化していきました。改めて、既存のレコメンドエンジンに対してどんな課題を抱いていらっしゃいましたか?
宮本氏:既存のレコメンドエンジンは、改善しようとすると時間もコストもかかってしまうだけでなく、レコメンドの軸が少ないという課題がありました。扱うのがファッション商材だけならそれでも問題なかったのですが、今後アニメのような他の商材にも拡張していくことを考えると、私たちが進みたい未来にマッチするのは『InsightX』だろうと考えました。
和田:2026年3月に正式キックオフし、8月末の完了を目指して動き出したリプレースプロジェクトですが、意思決定において大変だったことはありますか?
宮本氏:すでに定性的な実績はありますし、担当者の視点では入れるべきだと判断できるのですが、決裁権を持つ方々にリプレースの必要性について納得してもらう必要がありました。稟議を通すために、社内メンバーはもちろん、和田さんとも議論を重ねながら進めていきましたね。
和田:それが昨年末あたりでしたね。6月から段階的な移行が始まり、現在はまさにその真っ最中ですが、プロジェクトの進捗具合としては思い描いた通りですか?
宮本氏:他案件と比べても、順調に進めていただいています。毎週行われる定例会議で、お互いの懸念を共有しあえていることにも安心感があります。この規模のリプレースとなると、途中で深刻な問題が見つかって上長に相談したりするパターンが多いので、今回はスムーズに進みすぎていて驚いています。トラブルが起こらず進めているのは、和田さんをはじめ、InsightXの皆さんが丁寧なコミュニケーションを取ってくれているからだと思います。
和田:深刻な問題が起こらないのは、プラットフォーム側の特徴もあるかもしれません。『InsightX』には拡張性があるので、何か考慮できていないところがあれば、機能を追加して対応することもできます。取り組み全体を通して、InsightXの対応について印象に残っているところがあれば、ぜひお聞かせください。

宮本氏:粗い粒度で相談したとしても受け止めてくださることや、レスや対応が早いことに助けられています。丸井グループが今後どうなっていきたいかというビジョンを深く理解して、それを実現させるための提案をしてくださっているということを常々感じます。
和田:ありがとうございます。ビジョンについては、いつもお二人から学ばせていただいています。そのほかではIRを読んで、丸井グループ様が目指す方向を確認することもありますね。
宮本氏:丸井グループの従業員は、当然お買い物をするお客様のことを真剣に考えているのですが、こうして私たちとお取引する他社から見ると、丸井グループの人間がお客様ということになるので、その先にいるエンドユーザーのことまで考えてくださる人はなかなかいません。和田さんは私たちと同じ目線で、その先にいるお客様のことまで一緒に考えてくださっている感じがします。
和田:InsightXは「事業者の情熱をユーザーの感動へつなぐ」というミッションを掲げており、事業者様と共に、エンドユーザーの皆さんを幸せにするということを重視しています。また、これは一人のエンジニアとしての意見ですが、エンドユーザーの体験をより良くすることに対する情熱は人一倍あるので、互いの専門性を交わしつつ、ディスカッションしながら改善に取り組んでいくことにやりがいを感じています。
グループの事業をかけ合わせてより大きなインパクトを
和田:最後に今後の展望をお聞かせください。
宮本氏:現在行われているサイトリニューアルに伴い、新しいレコメンドもどんどん生まれてくると思います。その中でお客様の「好き」を起点としたレコメンドは増えていくはずです。また、個人的には丸井グループのリソースをかけ合わせてシナジーを作る仕組みづくりをしてみたいです。たとえばエポスカードや実店舗との連携が実現すれば、そこから今までなかった価値を生み出すことができそうです。
三好氏:私も宮本さんと似た将来像を描いています。現在は商品レコメンドに特化していますが、今後はレコメンドしたあとのユーザー体験そのものを変えていくような領域にも挑戦していきたいです。

和田:ありがとうございます。そこが私たちの目指す姿とも重なります。レコメンドはパーソナライズの入り口にすぎません。検索、分析、そしてその先の体験全体、つまり基盤として一緒に進化を続けていければと思います。
あわせて、『InsightX』の導入を検討する他の事業者様に向けて、何かメッセージを一言お願いします。
三好氏:私たちが抱えていた課題は特殊かもしれませんが、どんなに特殊なケースであっても、InsightXの皆さんは本当の意味で伴走してくれるので、ご安心ください。最終的な価値提供までつなげていく力は、InsightXの右に出る者はいないと思います。
宮本氏:今となっては、まるで自社の一員のような関係性で、気軽にさまざまな相談ができて助かっています。たとえまとまらない状態でも、相談をすれば実現しやすい企画を提案してくださり、データを分析し、ロジックを組み、実装まで持っていく……そこに対する絶大な安心感が、InsightXさんの魅力です。
和田:三好さん、宮本さん、本日はお忙しい中インタビューに協力してくださり、ありがとうございました。顧客体験全体を改善し続けられる「パーソナライズ基盤」への転換が実現できたのは、お二人が私たちの専門性や姿勢に信頼を寄せてくださったからだと改めて思いました。今後グループ全体とのシナジーを生み出し、新たな価値へとつなげていく局面においても、共に歩んでいけたら幸いです。

事例サイト
マルイウェブチャネル
2000以上のブランドを取り扱う「マルイウェブチャネル」は、ファッションアイテムをメインとしつつ、コスメやアニメといった分野も扱う通販サイト。同サイトは、首都圏や大都市圏を中心に商業施設「マルイ」「モディ」を21店舗展開する、株式会社丸井が運営。
文 |宿木屋
撮影|藤田亜弓